5分でわかるトレンドワード デジタル給与
要約
●デジタル給与とは?●デジタル給与の世界の動向
●デジタル給与のメリットと導入課題
●国内におけるデジタル給与払い導入の進展
●日本における導入企業例
●まとめ
デジタル給与とは?
スマホ決済や電子マネーの普及など、キャッシュレス社会の進展とともに、現金をほとんど使わない、あるいは現金を持ち歩かないというライフスタイルの人も増えてきました。そんななか、今回ご紹介する「デジタル給与」は、働く人にとって身近な給与の姿や仕組みが変わる、ということで気になっている方が多いかもしれません。
デジタル給与とは、従業員や労働者の給与・賃金を従来のように銀行口座を介さずに、直接スマートフォン決済アプリや電子マネーなどのデジタルマネーで支給する仕組みです。2023年の4月より解禁されています。
デジタル給与が導入された背景には、キャッシュレス決済の普及およびデジタル社会への変革があります。日本政府はキャッシュレス決済の普及を推進しており、2025年までにキャッシュレス決済比率を40%に引き上げ、将来的には世界最高水準の80%という目標を掲げています。経済産業省の調査によると、2023年のキャッシュレス決済比率は39.3%にまで上がっています。こうした本格的なキャッシュレス化やデジタル社会に対応する給与の新たな支払い手段として、デジタル給与の導入が始まっています。
※出典:経済産業省「2023年のキャッシュレス決済比率」
https://www.meti.go.jp/press/2023/03/20240329006/20240329006.html
もう1つの背景としては、さまざまな理由で銀行口座を持つことが難しい労働者の利便性向上もあります。特に増加を続ける外国人労働者にとって、デジタル給与払いは給与受け取りのハードルを下げる手段となります。
デジタル給与の世界の動向
デジタル給与は以下のような利便性やメリットがあると考えられています。
・そのままキャッシュレス決済に使える
・銀行やATMに行って銀行口座から現金をおろす手間が省ける
・銀行口座から電子マネーへチャージする手間が省ける
また制度上は、給与を現金とデジタルの組み合わせで受け取ることができるため、デジタルだけでは不便という方にも対応しています。
課題および懸念としては以下のものがあります。
・給与支払者から給与受取者に資金を移動する資金移動業者の破綻リスク
・乗っ取りやなりすましなど、セキュリティ面の不安
・従来の現金支給に加え、デジタルが加わることによる給与システムおよび給与管理担当者の負担増
・給与システムの変化による従業員の摩擦回避および労使間のすり合わせ
・通信障害や使用するアプリの不具合
・システムの複雑化と運用コストの増加
国内におけるデジタル給与導入の進展
2023年4月に労働基準法施行規則が改正され、デジタル給与払いが認められることになりました。
デジタル給与の支給は、銀行口座を介さずに送金サービスができる登録事業者である「資金移動業者」を介して給与支払者が受取人のアカウントにデジタルマネーで給与を振り込む仕組みです。資金移動者は厚生労働大臣の指定を受けたものに限られます。
※出典:厚生労働省リーフレット「賃金のデジタル払いが可能になります!」から抜粋
https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/001065931.pdf
賃金のデジタル払いが認可された資金移動業者数としては、2024年8月に「PayPay」、2024年12月には「リクルートMUFGビジネス」が、厚生労働大臣により指定されています。(2025年1月現在)
資金移動業者が認可されたことで、ここから実質的にデジタル給与の仕組みが始まったということができます。
出典:厚生労働省 「資金移動業者の口座への賃金支払(賃金のデジタル払い)について」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/zigyonushi/shienjigyou/03_00028.html
日本における導入企業例
日本では、ソフトバンクグループが2024年9月から希望する従業員を対象にPayPayを利用したデジタル給与払いを導入しています。
リクルートグループでも2025年1月からデジタル給与支払いに対応すると発表しています。リクルートMUFGビジネスでは近年増加しているスキマワーカーや若者層にニーズの高い即払いにも対応するなど、今日の労働環境やライフスタイルに合わせたサービスになっているようです。また他にも「サカイ引越センター」と「ニチガス」の2社でも導入を発表しています。
まとめ
とはいえ、前述の課題にもある通り、長年しっかりと形のできあがっている従来の給与システムを変えるデジタル給与は、まだまだ受取側も支払側も抵抗があるようです。ある調査では9割が導入予定なしという結果もあり、現状では導入に積極的ではないのが現状です。しかしキャッシュレス決済の普及や外国人労働者の増加、政府のキャッシュレス化推進政策などにより、デジタル給与払いは徐々に増加していくことが予想されています。